あれはそう、私がいたいけで純真な子どもだった頃、母が料理からお菓子からカクテルから網羅した料理本を買ってまいりまして、ウキウキしながら作ってもらいたいものに鉛筆で丸を付けたのに、待てど暮らせど完成品は出てこないという経験をいたしました。昭和56年あたりの話。業を煮やして「この本作るために買うたとやろー。ただ読むためじゃなかやろー」と訴えたら「お母さんはただ読むために買うたとよー」と言われて、衝撃を受けた想い出。「仕方ねえ。自分で作るか」と小学三年の時に奮起して、初めてレシピを片手に全工程を一人で作業して作ったのが、プレーンなアイスボックスクッキーでした。余談ながら鹿島錦を織り始めたり、編物に取り組み始めた時も、こんな感じやったで。求めても得られないなら自分で作るしかねえという発想は、結構な原動力と相成ります。
両親共働きとはいえ、僻地住まいなもので、さすがに核家族ではありませんでしたが、父を生んだのが四十過ぎで、その当時すでに八十代に差し掛かっていた祖母には無理だと思ったんだわ、正直。枇杷の木にするする登って実をもぐ程度には元気でしたけど、さすがにねえ。あの人休みの日は畑かお寺かしゃっば釣りに行っていましたからね。横文字にも弱かったし。本を片手にザ・昭和の手作りお菓子の筆頭であるババロアとか、ほぐした缶詰ミカンを混ぜ込んだカスタードクリームを使ったクレープなんかもこさえたで。カスタードクリーム作りは実験みたいで面白かった。「クリスマスにおすすめ」とか書かれていたコーヒーエッグノックは、ひたすら卵をかき混ぜるのに手が疲れて、一度しか作らなかった。
動画内で言及されていますけど、田舎だと材料がなかなか手に入らなくて、作られるものも自然と限られたわけですが、「これを代わりに入れてみよう」と試行錯誤できたおかげで、応用力が養われたような気がする。