堪能してまいりました

 両耳から堪能汁があふれそう。もちろんそんな奇怪な汁が耳から滲み出ることなど医学的にありえないわけですが、ありえなさそうなことも起きかねないほど堪能できたということでご了承を。

 何を堪能してきたかというと、長らく楽しみにしてきたエイブル落語会が今日だったわけですよ。その割には開催週を勘違いして何やってんだという話ですけど、それはそれこれはこれ。それにしても相変わらず知人との遭遇率が高い。さすが鹿島の落語会。佐世保とか北九州だと知り合いに会うことなんて皆無なのに。ちなみに隣の隣の席はA先生でしたよ。歩いて見えられたのだとか。

 本来は権太楼師匠とさん喬師匠の二人会の予定でしたが、権太楼師匠が間質性肺炎で入院され、今年いっぱい地方での落語会はお休みされるそう。急遽だったので代演には期待していなかったのですけど、まさかの市馬師匠でなんともありがたい限り。ちなみに本日の演目は

  1. 柳家さん光さん「反対俥」
  2. 柳亭市馬師匠「禁酒番屋」
  3. 柳家さん喬師匠「芝浜」

 どれも冒頭を聴いただけで筋立てがわかる有名な噺。貫禄だけならすでに真打のさん光さんは西九州大学だっけ。しばらく三養基の病院で勤務されていたらしいですね。反対俥といえば、たいていの場合はサゲは「芸者を(お座敷に)上げられるくらいなら……」なので、そこで終わるんだと早合点して拍手をしたら、続きがありやんの。何あのサゲトラップ。宮治師匠もCDでやってたっけ。最近の流行りなんですかね。最前列の席だったので、「汗すごいなー」「着物の柄綺麗だなー」とか、そういうところまで含めて楽しめた次第。来年何かやらかさない限りは真打昇進とのことで、実におめでたい。佐賀のこと忘れんといてね。

 市馬師匠は、マクラでご自慢の喉を惜しみなく披露。帰り際いろんな方が「いい声だったー」と感心したようにおっしゃっていたので、「何? 今さら知ったんですかいな?」とこっそり優越感を抱いたりして。私はずいぶんと前から知っておりましたよ。ふふふ。演目は禁酒番屋。役人の酔いが進む部分の演出とかやはり見事ですね。サブスクとかCDからリッピングした音声ファイルでしか聴いたことがなかったので気づいていませんでしたが、三度目のは飲む仕草はしないんですね。鼻に近づけるだけで終わる。私はてっきり口に含んでから「なんだこれは」となるのかと勘違いしていました。先代馬生師匠も「家見舞い」では汚い演出はしないと決められていたらしいし、まあ、下品で不快だからかな。水カステラが実際にあるとしたら、ミルクセーキみたいなもんなんだと思います。ちなみに長崎でミルクセーキを注文すると、シャーベットが出てきますよ。蛇足ながら、斜め下から拝見する市馬師匠は、上下を切る時妙に糸井重里にそっくりでドキがムネムネ。

 トリのさん喬師匠は、私がずっと聴きたい聴きたいと願い続けた芝浜でした。もう一人で大感激。まだ11月ですが、通常年に一度しか開催されないエイブルの落語会。まったくもって無問題。ただ、落語=笑える話という認識の人が少なからずいたみたいで、そのあたりが迎える側としては残念だったかなあ。笑える噺は滑稽噺。夏にやる怖い話は怪談噺。そうして芝浜は、ほろりとさせたりハラハラさせたりする人情噺に属します。滑稽噺しか知らない人、笑点のイメージで来場した人は、もしかしたら消化不良だったかも。これはもう、客席に来る側も経験を積んで、おぼろげな落語観をより明瞭にしていくしかないですね。落語に詳しい人なら、さん喬師匠のちょっとくどめの芝浜と聴いた時点で「ひゃっほー」となるはず。

 それから、さん喬師匠、鹿島錦にも言及してくださったのですよ。こちらも感激。次は来年かあ。あるかどうかわからないですけど、あるなら落語三銃師――意図的にこの「師」らしい――希望。

※東与賀で年明けに文菊師匠の独演会があるのだとか。東与賀と言えばインフル事件の舞台です。白鳥師匠の独演会後、帰りの車の中で高熱を出したというトラウマがありますので、観に行きたいのはやまやまですけど、慎重さを発揮せねば。「いやらしいお坊さんが出てまいりました」を生で聴きたいのに。

※アレクサンドル・デュマの三銃士って、後半敵味方に分かれて戦ったような気が。