三つくらい織れればいいのよー

 鹿島錦の悪魔に速攻で魂を売り渡したかのように半世紀以上一心不乱に織り続けられた大先生、意外にも「しばらく織ったら得意な図案とそうでない図案がわかるから、自分の得意な図案を二つ三つくらい織っていけばいいのよー」とおっしゃってたなんてここだけの話。すかさずA先生が「いや出来るだけ全部織れるごとならんば……」と ツッコミ 訂正されていたなあと、懐かしさを覚えてみたり。やはり皆それぞれ好きな図案や得意な図案があるようで、青海波が好きな方、桝が好きな方、花菱が好きな方、いろいろです。ただねえ、今織り始めて七年目ですけど、これまで誰一人として織っているところを見たことがない図案というのがいくつか存在するんですよ。下手な私はともかく、上手な人も織らないという気の毒な図案。ランク付けするなら、多分これから私が織ろうと考えている鹿子市松がその筆頭になると思います。

 糸を掛けるにしても、桝ベースの割に12本掛けないといけないし、拾うにしても面白みがない上、色替えもしにくく、織った後の見栄えも紗綾型などの足元にも及ばないというのが、多分その理由。この間有能会員Iさんが試し織りをされていたけど、それくらいです。作品として仕立てられたのも、三十周年記念だったかな、当時の会員が総出で織って乾坤の二冊でまとめられた伝統図案集くらいしか知りません。伝統図案の中では、偶数目が結構入って拾いづらいことこの上ない七宝を織る人も滅多にいませんけど、落語部長のMさん始め数人の作品を拝見したことがあるので、鹿子市松は特別に味噌っ子扱い。

 何でそんな図案を織りたいかと、単純に見た目が可愛いから。とにかく可愛いんやで、鹿子市松。誰が織ってもファンシーになるという呪いのかかった模様です。この場合のファンシーに英語本来の意味は含まれておりませんので念のため。本来のfancyって、形容詞として使う場合は、豪華な装飾が施されたもの、日本でいうなら日光東照宮みたいな感じなんだってよ。

 クマ二体分の布を確保できるまで生成り一色で織って、その後はパステルカラーで遊びます。その後スーツ部分を織りなおし。