残り一気に

 日本霊能者列伝の残り。なぜ私がこんなマニアックな世界についてわずかとはいえ知識があるかというと、以前とある出会いがきっかけとなり、カルト被害者支援の手伝いをしていたためです。別にガチガチの宗教愛好家とちがうでー。

・黒住教祖物語

 天照信仰から生まれたらしい黒住教。検索しようとしたらGoogleさんが毛穴の黒ずみ対策をサジェストしてきますが無視。まあ……善良な人だったんでしょう。そんなことより五明楼を名乗る有名易者がいたことに驚愕。やはり下ネタ好きだったりしたんでしょうか。

・飯野吉三郎の横顔

 私が嫌いな隠田の行者ですよ。読みたがっていたから興味があると思っていました? 残念。そんなことはなくて、はなから嫌い。一読した限りでは、ものすごい美化されているような気がする。昨今飯野の功績を再認識しようという動きが彼の故郷であるようですけど、嫌いなもんは嫌い。四つ足云々という部分は特に差別意識丸出しですけど、実際体調を崩したということは、もしかして何かの動物アレルギーだったんでしょうか。ちなみに著者の田中貢太郎の執筆当時は存命だった模様。話の途中で人体ラヂウム療法で名を馳せた松本道別が唐突に出てきて困惑。なるほど、松本の健康法って獄中の寒さ対策で考案されたのか。なお松本の弟子の野口晴哉は後に野口整体を興すんだってさ。

・予言者宮崎虎之助

 初めて知らない名前が出てきてわくわく。ちなみに「予言」は何らかの手法で未来を予測し、それを事前に言葉にすること。「預言」は神から言葉を預かることという違いがあるので注意。なぜ今読んでいる河出書房版では予言表記になっているのかは謎。デジコレで検索して確認しましたが、底本の「明治大正實話全集 第七巻」の目次では、きちんと預言者表記になっています。さらに調べて知ったこと。明治大正實話全集は巻ごとに著者が違うよう。三遊亭園朝と小さん・圓右と二つの章で落語に触れている第四巻の著者は村松梢風。これも後で読まないと。

 それにしても、潜伏キリシタン関連で必ず出てくる観音立像に見せかけた聖母マリアを祈りの対象とする「マリア観音」という言葉に似て非なる、宮崎が自称した「メシヤ仏陀」がパワーワードすぎる。寝取られた妻に出奔され、逃がした男も逃げた女も自らの手で殺してやろうと息巻いて旅に出たある日、視界に入る全ての物がきらめく輝きに満ちた世界に包まれるという神秘的な体験をして、自分がキリスト以上のメシヤだと信じ込む宮崎。純粋ではあるけれど何一つ異能はなく、何の奇跡も起こせず、大声を張り上げて説法するしか出来ない貧しく不器用な男の生きざまは、滑稽でありながら、際限なく哀れ。脚色せずにそのまま落語になりそう。この人の存在を知れただけでも読んでよかった。他の教祖様方と違って徹頭徹尾凡人でしかないところに、逆に存在としての魅力を感じる。本当この人どうしようもないなとその傍らで思いつつ。多分某ネ申と同類。ネ申の方は取り付く島もないほど傲慢で可愛げは毛ほどもありませんが、経済力では確実に宮崎は足元には及ばない。そのへんはかあいそう。とってもとってもかあいそう。

・神仙河野久

 これももちろん明治大正實話全集に収録されております。ええと、實話ってなんだっけ、どういう意味だっけと不可解な気持ちになれること請け合い。本 当 に あ っ た 話 とかいう意味でしたよね、確か。しかも河野久当人はほとんど印象に残らず、語り部的な立ち位置で宮地さんちの水位さんが出てくるもので、うさん臭さ倍増。私も中国四大奇書の西遊記の完訳版に小学三年の時にはまった過去がありますので、心情的には「神仙になりました」という人たちのことを信じたいのはやまやまですが、まあ……ねえ(´Д`) しかもそこまで音楽的才能には恵まれていなかったようで、仙境での演奏は下手っぴだったとのことです。でも大丈夫。神仙なら人間の寿命を超越しているはずだから、いくらでも練習できるはず。

 もう、古刹などに出向かない限り、人里離れた山奥で修業とか出来ない時代になりましたので、今後はこういう人も出ないんでしょうね。心ある神仙が誰でも上手に錦を織れる織り台を作ってくれんもんじゃろうか。

・木食上人山下覚道

 出来るだけ食事をしないことを提唱するブレサリアンは、極めつけに特異な体質の人以外には著しく危険思想だという認識。元祖和製ブレサリアン的なこの人もつまりたいがい。学がないから道をおさめようがないということで山下師が始めた始めた木食行。火を通したものを食べるのをやめ、生の木の葉や草の新芽・若芽を食べる行とのことですが「冬はどうされます」と訊かれて、「(根っこや木の皮だけではどうしようもない場合もあるため)野菜を買います」と返答するくだりが好き。正直。それと近所の子どもたちがお堂で遊んでいる描写も愛らしい。おそらくこの方も善良な方だったんでしょう。

 ただ、真冬でも入浴せずに水浴で済ませるなんて私には絶対無理。佐賀錦の古賀フミと交流のあった柳宗悦も、この方より前の時代の木食行の実行者について記しているとのこと。私は入浴もするし肉も食べるよ。

・蘆原将軍の病院生活

 恥ずかしながら存じ上げませんでした、この方。まるでミュンヒハウゼン男爵みたいな人物ですね。江戸川乱歩や筒井康隆も作中人物のモデルにしているのだとか。自称天皇と言えば熊沢天皇しか知らなった自分が恥ずかしい。メモしておこう。

 日本霊能者列伝というタイトルは誤解を招きかねないのでいかがなものかとは思いますが、蘆原将軍と宮崎虎之助について知ることが出来ただけでも良かった。この二人を主人公にした落語があれば絶対聴くのに。

 本の感想とは別に改めて痛感したのが、もう紙の本は無理ということ。しんどい。とにかくしんどすぎる。もしかしたら近いうちにKindle Scribeを買うかも。SONYの電子ノート(初代)の方が画面が大きいのですけど、A4だと持ち運ぶのに難があるし、何よりライトがついていないもんでよう。